ほんの10分の深い文学体験。
「文鳥文庫」がうまれるまでと、これから。
「文鳥文庫」をご存じでしょうか。長くても16ページ、読み終えるまでに10分くらい。そんな短い小説を蛇腹折りの「文庫」にして昨年8月にデビュー以来、静かに売れ続けています。昨年12月には第2弾を発表。日本文学の名作ばかりを集めた第1弾とはまた違う「ふたり」というテーマを掲げ、村上春樹さんをはじめとした著作権のある作品を収録したことでも話題に。発売元の文鳥社代表・牧野圭太さんに、その思いを伺いました。
文・池田美樹
クロワッサン倶楽部:「文鳥文庫」第一弾はテーマが日本文学だったので、この路線ですすんでいかれるのかと思っていたところ、第二弾は「ふたり」というテーマでの切り口で少し驚きました。「ふたり」というテーマを掲げられたのはなぜですか。また、どうして、テーマで作品を選ぼうと思われたのでしょうか。
※第1弾の収録作品は太宰治の「走れメロス」、宮沢賢治の「注文の多い料理店」、芥川龍之介の「白」、夏目漱石の「変な音」、坂口安吾の「堕落論」、梶井基次郎の「檸檬」、新美南吉の「手袋を買いに」、森鴎外の「高瀬舟」の8作品。
牧野圭太さん(以下牧野):文鳥文庫は、毎回テーマをもって販売していきたいと考えています。
今後は「謎」というテーマだったり、「京都」といった場所に限定した編集もしたいと考えています。今まで、書籍というものは全国一律のものでしたが、「京都」は、京都の本屋だけしか販売しないなど、そういった試みにチャレンジしたいと思います。
例えば「食べ物」というテーマで芥川龍之介の「蜜柑」、梶井基次郎の「檸檬」、宮沢賢治「黄色のトマト」など、食べ物タイトルだけの短編を集めて、青果店で販売するなども考えています。
物語を使った楽しみ方はきっとまだまだいろいろとあると思うので、文鳥文庫はそういった試みにチャレンジしていきます。
クロワッサン倶楽部:京都だけでの販売や青果店での販売など、素敵なアイディアですね! 今回「ふたり」というテーマにおいてこの8作品を選ばれたのはなぜですか。
牧野:正直に言えば、「ふたり」は割とゆるいテーマです。最初は「恋愛」だったのですが、ただの恋愛ではない関係性が物語にはあったので「ふたり」としました。
セレクトは基本的に文鳥社の代表の僕と、デザイナーなどのスタッフで議論して決めています。村上春樹さんと柴田元幸さんの作品は昔からとても好きだったので、必ず出したいと考えていました。文鳥文庫は「文学」を扱いたいので、簡単には捉えきれない深さや密度のある作品を選出しています。
クロワッサン倶楽部:出版社ではたらいている者として、著作権のある作品を選んで商品化されたことにもとても驚きました。収録に当たってのご苦労やエピソードを、公開できる範囲で教えていただけますか。
牧野:正直に申し上げて、初めての経験だったのでとても大変でした。「著作権」と「出版権」が存在することも明確にわかっていませんでしたので(笑)
ただ、村上春樹さんの作品の販売の許可をいただけたのは、夢のような話でした。まさかスタートして4か月ほどの出版社にご協力をいただけるなんて思いもせず、村上さんの懐の深さを感じました。
クロワッサン倶楽部:「文鳥文庫」をつくられた思いはブログ(http://bunchosha.com/posts/99)で拝読しておりますが、改めて、16ページ以下の作品であること、蛇腹に折りたたまれた紙というかたちであること、についてその理由や思いをお聞かせください。
牧野:今の時代、本が読まれなくなっている理由に、長すぎることと重すぎることがあると考えています。本一冊が、スマホよりも物理的に重いというのは難しいと思います。なので、スマホより軽く、気軽に読める新しい本の形態が必要だと考えました。
その考えから短編の可能性に着目しました。10分ほどで読める短編は、読書のなかでも気軽に楽しめるものですが、本という形態を取る限り、短編集として分厚い状態で売られていることがとても残念に思いました。
短編に合わせた本の形式を再発明しようと考えてつくったものが、文鳥文庫です。蛇腹型にしたのは、数ページだと製本するよりも安定することと、新しい形にこだわった結果です。
クロワッサン倶楽部:文鳥社さんは実はデザイン会社で、出版はそのひとつの事業なんですね。会社としての文鳥社のこれからについて教えてください。
牧野:文鳥社はデザイン会社ですが、文鳥文庫はひとつの事業として継続的に進めていこうと思います。それは文鳥文庫が、文鳥社のビジョンや姿勢や技術を体現しているものだからです。
文鳥社はできるだけ「文化に貢献するデザイン」を行っていこうと思います。文化の最たるものに「文学」があると考えています。まずはそこに貢献したい、という思いから文鳥文庫はスタートしています。また、形式にアイデアを求められ、装丁に美意識も求められるなど、自分たちの技術のすべてを詰め込んだものなので、文鳥社のアイデンティティとしても続けていきたいと考えています。
牧野さんのフィロソフィーの詰まった文鳥文庫。今回、直接お話を伺うことができて、改めて「文学」に愛おしさを感じ、また、新しい読書体験が得られることをうれしく思いました。今後のテーマや展開も楽しみです。
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