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新年の茶会・初釜の見どころを、
自宅で再現。

文・写真/古庄香哉

茶道教室に通い始めて、二年半。先日、三度目の初釜を迎えました。初釜とは、新年はじめての茶会。晴れ着を装い、ご亭主のふるまう濃茶・薄茶・懐石をいただきます。

一日がかりの濃密なイベント。手前やお作法を一つ一つ紹介するのは、伝統ある教本にお任せするとして、私が感じた「初釜の見どころ」を、お伝えしたいと思います。
つくばい

 

まずは、お道具の拝見。

茶室に入り、まず向かうは床の間。掛け軸、花と花入れ、香合の順に、拝見します。拝見の際は、正座をしたまま自分の膝前に扇子を置き、「結界」を作ります。ご亭主がもてなしの心を込めた掛物を見せていただくには、自分自身を謙虚にすることが必要です。結界とは、その「線引き」を意識するものであり、扇子一つで表される所作に、私は、身と心の引き締め方を覚えます。

新春の椿。削ぎ落とされた美。奥の掛け軸からも、季節や物語が感じられる。

新春の椿。削ぎ落とされた美。奥の掛け軸からも、季節や物語が感じられる。

次に、釜、手前座(亭主が茶を点てるために座る場所)に足を進め、拝見。客席に戻ってからは、濃茶、薄茶と、茶が点てられていく様子を、たっぷり時間をかけて、見て聞いて味わいます。私が特に好きなのは、釜。時が経つにつれ、顔つきが変化します。熱源となる炭の色合い、パチと空に舞う火花。シュンシュンと沸き立つ湯の音が、四畳半の壁から跳ね返る。時おり挟まれる、柄杓の返しによって、また亭主と客人たちの会話によって、そのハーモニーは幾重にも形を変えてゆきます。

余計なものが一切ない、侘び寂びが完成された茶室だからこそ感じ取れる、気づきです。

釜の形状、つまみのデザイン、鉄の色合い、時を重ねた詫びを、五感で愛でる。

釜の形状、つまみのデザイン、鉄の色合い、時を重ねた詫びを、五感で愛でる。

 

新春の季節感あふれる五味を、食す。

初釜をはじめ茶会では、懐石もいただきます。茶席で味わった、主菓子のしっとりした甘さ、濃茶のとろとろとした苦味。口に溶けゆく干菓子の甘みを引き締める、薄茶の軽やかな苦味。それらの味覚を、さらに拡げてくれる茶懐石。今回は弁当形式にした「点心」にていただきました。彩りよく美しく収まった縁起ものの食材は、まるでおせち料理。新年のご馳走が二回来たみたいで、嬉しさいっぱい。

酒器や、盆、漆器といった普段はお目にかかれない和のテーブルウェアに、触れられることも、とびきりの悦びです。

紅梅のお飾りの付いた酒器。ボダニカルな設えにうっとり。

紅梅のお飾りの付いた酒器。ボダニカルな設えにうっとり。

点心。限られたスペースに、立体的に詰めていく美技にも、目が奪われる。

点心。限られたスペースに、立体的に詰めていく美技にも、目が奪われる。

 

初釜の余韻を「盆手前」にて自宅で再現。

ご亭主の贅沢な茶空間を、存分に味わった初釜。あいにく同じ設えを自宅で愉しむのは、到底、身の丈むずかしくあるのですが、簡単にできる手前があります。それは「盆手前」。お盆と、茶碗、茶筅、やかん、抹茶が最低あれば、できます(棗、茶杓、茶巾、袱紗があれば尚よし)。

やかんはホーローものを使っています。モダンアレンジでシャカシャカするのも、なかなか愉し。初釜の後だと、いつものガスコンロで沸かす湯の顔つきに、より自分の感性が向き合えている気がします。

大切なのは、とにかく道具を清潔にすることかと思います。茶筅や茶碗を、客前で丁寧に清め、真心が感じられる手前を心掛けています。掛物の代わりに、季節の果物を食卓に並べたりも。自然の香の、ほのかな甘美に、客人が気づいてくださったら、嬉しいです。

いつもは雑然としがちな食卓も、侘び寂びを意識して、すっきりお片づけ。

いつもは雑然としがちな食卓も、侘び寂びを意識して、すっきりお片づけ。

カプチーノのように、空気をたっぷり泡に含ませるのが、裏千家流。

カプチーノのように、空気をたっぷり泡に含ませるのが、裏千家流。

そうそう、時と場所と身の丈は数あれど、茶道の作法で、いつでもどこでもできる万能の技があります。それは「お辞儀」。相手への敬意や姿勢の正しさを表した所作です。「真(しん)」「行(ぎょう)」「草(そう)」と三種類あり、真のお辞儀がもっとも丁寧で深い角度。手前の中では、亭主や客の役割やシーンによって、三種を使い分けますが、指先を軽く畳につく草のお辞儀であっても、気持ちは真であることが求められます。

日常の様々なシーンで、この伝統技を大切にし、いろんなヒトモノコトと丁寧に向き合うことができたらなぁと、申の年の2016年、気持ちを新たにしています。

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