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夏の旅は心が潤うアートスポットへ! 外国人に自慢したくなる、豊島美術館と中之条ビエンナーレ。

文・西島奈央(クロワッサン倶楽部読者モデル)

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「暑いな〜こんな日はスイスのおじいちゃんの家に避暑にでも行きたいね〜」
「・・・ほんとだね〜」

ある暑い日の我が家の会話。うちには海外に住んでいる親戚なんてひとりもいませんが、つまらない冗談でも相槌を打ってみると、真っ青な空にマッターホルンがそびえ、草原の向こうからペーターとおじいさんが手を振って迎えてくれる光景が浮かび、ひとしきりアルプスの涼しい風が身体を突き抜ける気がするから不思議です。

時には思い切り別の空間へ心を馳せてみたいものです。できれば身体も一緒に。

夏に心の潤いを求めて行きたい場所として真っ先に思い出すのは、瀬戸内海に浮かぶ豊島美術館。

瀬戸内には、直島を始め犬島、小豆島などアートスポットはたくさんありますが、中でも豊島美術館は特別。このためだけに、飛行機と船と自転車を乗り継いで行きたい場所です。私が海外の人に自慢したい日本ナンバーワン!

侘び寂びとか禅とか日本人とかそういうものを飛び越えて、もうユニバーサルランゲージだと思うのです。

建築家の西沢立衛さんとアーティストの内藤礼さんは、どのような話し合いをして美術館ができあがったのか。もしかしたら言葉で会話してないのかもしれない。などと想像してしまうほど、素晴らしいコラボレーションです。マーケティングとかトレンドとか採算とか、そんな言葉からは絶対に生まれない空間。

針の先ほどの穴から不定期に湧き出る小さな水の玉が、水滴になり結合し、やがて流れになり泉になる、このまどろんだ時間を生む絶妙な傾斜はどうやって計算されたのでしょう。
天に向かって大きくくり抜かれたふたつの穴は、光も風も、虫も葉っぱも出入り自由。風、光、水、音、ときどき空。ただ佇んでいると、見えないものも見えてくるようです。とても儚く、あまりにも謙虚。

謙虚。それって日本人的かもしれませんね。

チケットショップから眼下に広がる海や自生する植物、昆虫などに気を取られながら数分歩くと美術館が見えてくる。この中に内藤礼の作品《母型》がある。

チケットショップから眼下に広がる海や自生する植物、昆虫などに気を取られながら数分歩くと美術館が見えてくる。この中に内藤礼の作品《母型》がある。

90年代に見た内藤さんの作品は、胎内にいるようにやわらかでありながら、どことなく生と死の間を感じさせるところがありましたが、《母型》は、生きていていいんだ!と叫びたくなるような生気に満ちた作品だと思いました。

館内は撮影不可のため内部の写真は掲載できませんが、写真や言葉ではとてもこの感動を伝えることはできません。ぜひ行ってみてください。

来年の夏は、瀬戸内国際芸術祭2016が開催されます。芸術祭期間中は混雑するので、事前にwebから日時指定チケットを予約したり、船も定員になると乗れなかったりします。だからゆっくり行くなら今年がお薦めです。

クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」 写真:久家靖秀 世界中の人々の心臓音を集めたインスタレーション。自分の心臓音を採録し持ち帰ることもできる。

クリスチャン・ボルタンスキー「心臓音のアーカイブ」 写真:久家靖秀 世界中の人々の心臓音を集めたインスタレーション。自分の心臓音を採録し持ち帰ることもできる。

唐櫃地区にある青木野枝の作品から瀬戸内海を望む。

唐櫃地区にある青木野枝の作品から瀬戸内海を望む。

島内には他にも「心臓音のアーカイブ」や「豊島横尾館」、「島キッチン」など見所はたくさん。民泊もできます。開館日や島内の交通手段は事前チェック必須です。タクシーはつかまりません。

また、9月には内藤礼さんの映画「あえかなる部屋〜内藤礼と、光たち」が公開されるそうです。

 

温泉と里山でアートフェス、中之条ビエンナーレ

もうひとつは、のどかな里山と温泉地が舞台のアートフェスティバル「第5回中之条ビエンナーレ」。

中之条ってどこ?という方もいらっしゃるかもしれません。草津、伊香保、四万と群馬の3大温泉に囲まれた美しい山あいの里です。東京からは電車、自動車共に最短で2時間くらいの距離。

昔北関東に住む90歳を過ぎた祖母に「どこのお湯が一番いい?」と聞いたら「四万温泉」と言っていました(あくまでも個人の感想ですが)。国民保養温泉第一号の歴史ある温泉です。その四万温泉を含む中之条町に、今年は150名以上のアーティストが集います。参加するのは主に発表の場を求める若いアーティストや海外からの招待作家。会期は9月からですが、こうした美術展は滞在制作が基本なので、すでに制作は始まっています。

服部八美「天と地の間にて我思ふ」 展示会場 花楽の里 *2013年の作品

服部八美「天と地の間にて我思ふ」 展示会場 花楽の里 *2013年の作品

藤井龍徳「中之条気象台‐フリソソグモノニツイテ」 展示会場 やませ *2013年の作品

藤井龍徳「中之条気象台‐フリソソグモノニツイテ」 展示会場 やませ *2013年の作品

すごいなと思うのは、200年前の土蔵や木造校舎、古民家、森、渓谷、地域に伝わる伝統行事など、失ってからでは取り返しのつかない山村の文化をこうしたアーティスト達がちゃんとリスペクトし、生かした作品にしていること。古いものに新しい感覚を吹き込むことでどちらも生きてくるんですね。

ツイッターなどで日々作品の進行を伺い知ることができるので、制作過程も注目です。

青く澄んだ渓流に目も心も癒され、道端の祠(ほこら)にほっこりしながらアートを巡る。最後は、四万の病に効く温泉でリフレッシュ。日本が誇れる里山のアートフェスです。また明日から頑張れそう!

豊島美術館
http://www.benesse-artsite.jp/teshima-artmuseum/

映画「あえかなる部屋〜内藤礼と、光たち」監督:中村佑子
http://aekanaru-movie.com
中之条ビエンナーレ
http://nakanojo-biennale.com

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