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日本の食文化、熟成和牛肉を堪能する。

文・写真/古庄香哉

毎日の生活で、親しんでいる日本の食文化。「和食」という調理法のくくり以外でその文化を考えてみると、「和食材」という切り口があります。新鮮で種類豊富な魚介類、キノコ、お米などの穀物、四季の野菜など等。そんな食資源豊かな我が国において、誇れる食材「和牛肉」。今回はその歴史あるご馳走を、「熟成」という近年ブームの美味しさを加味して、ハレの日に外食で/日常でも家庭料理で、堪能する一例をお伝えします。

 

和牛とは?熟成肉とは?

まず、和牛とはどういったものを指すのか。国産牛との違い、気になりますよね。答えは「和牛=黒毛和種、褐色和種、日本短角種、無角和種」の四種の日本原種の牛、及びこれらの交雑種です。対して「国産牛=国内で飼育された牛のうち、和牛を除いた牛」…例えば、ホルスタイン種やジャージー種。一般的に、和牛はその品質管理の丁寧さから高級品として、国産牛は手頃な値段で、味わえることが多いようです。

さぁそして、近頃お肉と言えば見逃せない「熟成肉」。お肉の中に含まれる旨味成分を、ギュッと濃縮させ、肉質を柔らかくする熟練技。ブームの発端は、欧米から上陸した「ドライエイジング」といわれています。これは、1ヶ月程お肉に風を当て、水分量を飛ばしながら、酵素の働きで旨味を濃縮したり肉質を柔らかくする方法。他にも、真空パックで低温熟成する「ウェットエイジング」、風土に合わせて吊るし熟成させる「枯らし」など、色んな方法があるようです。それぞれの熟成法を食べ比べするのも…贅沢な挑戦ですね。

さて、ここまで書き進めて気づいたのですが、実は私、二年前まで熟成肉を口にしたことがなかったし、お肉自体、胃もたれするもの、としてセーブしてきました。それが、今となっては、上記の分類を意識して食するようになるほど…熟成和牛肉の魅力に、ハマっています。

熟成庫。温度や湿度、風の当て方などが、熟成度に合わせてコントロールされている。

熟成庫。温度や湿度、風の当て方などが、熟成度に合わせてコントロールされている。

(手前より時計回りに)Lボーン、カルビ、カイノミ。月齢38ヶ月。熟成40日。空気にさらされ、脂が次第に溶け香り漂う。

(手前より時計回りに)Lボーン、カルビ、カイノミ。月齢38ヶ月。熟成40日。空気にさらされ、脂が次第に溶け香り漂う。

 

外食で味わう、熟成肉のプロの技。

そのような食に対する気づき(「お肉の魔力を体感した」ともいいます)の経緯を、お伝えさせてくださいね。

一つは、良いレストランに出会ったこと。私がハレの日に、足繁く通っているのは「格之進」。岩手県一関市のいわて南牛を中心に2002年より熟成肉を研究しながら提供している熟成肉専門店です。東北の豊かな自然の中で、子牛の頃から美味しくなる慈しみをタップリと受けた黒毛和牛。その上で、部位毎に最適な熟成を施している「門崎熟成肉」の生産体制に、まず惚れます。メニューから、お店のホームページからにじみ出るその愛情。

最高の状態に仕上げられつつあるお肉の過程が、店内のガラス張りの「熟成庫」で可視化されている風情も、通いたくなる愉しみ。美味しいお料理のみならず、ヤケド厭わずジュウジュウと格闘されているシェフのお姿から、表面熱々の一瞬を逃さずテキパキとサーブくださる給仕のスピード感から…その一連の極上サービスを、同時多発的に知るのは、「プロの技を堪能できる外食」ならではの体験です。

Lボーンステーキ。サーロインの豊潤な旨味が、骨の際まで帯びている。脂の旨味に浸っても、次の日、胸焼けしないのが不・思・議。

Lボーンステーキ。サーロインの豊潤な旨味が、骨の際まで帯びている。脂の旨味に浸っても、次の日、胸焼けしないのが不・思・議。

サーロインの甘味が表面ににじみ出て、カリッと。中身は、フワフワと、咬む度に肉汁が飛び出す。

サーロインの甘味が表面ににじみ出て、カリッと。中身は、フワフワと、咬む度に肉汁が飛び出す。

一頭の牛から頂く、お肉の繊細な各部位。サーロイン、ヒレ、モモ、カルビ、カタ。カイノミ、イチボといった希少部位も、大人数でワイワイとレストランに集うと、ちょっとずつ沢山の種類食べられます。食感、甘味旨味、肉汁の瑞々しさ、熟成香を何に例えるか、、各人がお肉のどのポイントに着目し、どのような感想を発するのか。牛の命を通して、そのヒトの人間性を、また新たに発見できるコトも生命力溢れた「肉会」の醍醐味なのでは…と私は、感じています。

「お取り寄せ」と組み合わせて、おウチでも味わう。

そして、せっかく外の世界で知り得たこのお肉の喜びを、おウチで満喫しないわけにはいきません。内食ではコスパも考慮したい。そこで、お手頃部位をネット通販で「お取り寄せ」します。

オススメのレシピは「ビーフガーリックライス」。細切れにした熟成肉を、味わい豊かにボリュームたっぷりに、堪能することができます。緑黄色野菜をたっぷり加えて、栄養バランスを調整することも、家庭料理の愛の一味です。

いざ取り寄せたグッドコンディションの「熟成塊肉」。シェフの凄技によると「オリーブオイルを3cm程フライパンに敷き、玉杓子でお肉に回し掛けしながらジックリと焼く」と良いようです。見よう見まねで真剣に、中心温度が70℃程度になるまでお肉を熱したら、焼き上がり。包丁を入れると、お目見えするは、艶やかなピンク色の肉の断面(あぁ、なんと美しい!)。細かく刻んでも、歯ごたえ十分かつ肉汁滴る「カタ肉」は、値ごろ感も食べ応えもあり、家族みんなを満足させてくれました。

カタ肉。筋肉質な咬み応えありつつも、サラリとした肉汁が滴る。

カタ肉。筋肉質な咬み応えありつつも、サラリとした肉汁が滴る。

各食材を「同じサイズ」の刻み方にすると、見た目美しく、口に入った瞬間、そのものの「風味」を集中して味わうことができる。

各食材を「同じサイズ」の刻み方にすると、見た目美しく、口に入った瞬間、そのものの「風味」を集中して味わうことができる。

たっぷりの緑黄色野菜で彩りも豊かに「ビーフガーリックライス」。ブラックペッパーを利かせても美味しい。

たっぷりの緑黄色野菜で彩りも豊かに「ビーフガーリックライス」。ブラックペッパーを利かせても美味しい。

生産地を知る、想う、そして食す。

結びに。私がお肉に魅かれたもう一つの大きな理由、それは和牛の旨さのルーツを辿っていくうちに、「畜産の現場」の現状や未来への挑戦を、知り、感動することが出来たからです。いま自分がいただいている美味は、どういう自然や種の恵みを受け、どういった生産者の創意工夫や持続可能な体制づくりのもとに、届けられているのか。理解と想像を膨らませると、より一層、お肉が美味しく感じられます。

現代だと、それら「生産現場の最先端情報」も、各団体のホームページやSNS、グルメオフ会や学会ニュースレターなどで、知り得ることができるので、ラッキーですね。

九州大学が開発するブランド牛「Qbeef」ホームページより。大分県「くじゅう高原の大自然」と「九大の農学知」が融合し、新しい「和牛文化」が形成されている。

九州大学が開発するブランド牛「Qbeef」ホームページより。大分県「くじゅう高原の大自然」と「九大の農学知」が融合し、新しい「和牛文化」が形成されている。

これから将来に渡って、身の丈を伸ばしながら貪欲に…「松坂牛」「土佐牛」「神戸ビーフ」「近江牛」「肥後のあか牛」「Qbeef」、そのほか各地の誇りが詰まった和牛を、食べてみたいものです。そして、生産地を知り想い、また味わいを深める。そんな幸せな日本の食文化のループを堪能していけたらなぁと、心から願います。ハレの外食と、ウチの家庭料理を、それぞれに愉しみながら、感謝しながら。

 

格之進
http://kakunosh.in
Qbeef
http://www.qbeef.jp 

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