「“悪口を言ってはいけません”と言いますが、これは山の手の勤め人の倫理観で、下町だと“悪く言っときゃまちがいない”というほうが正しいんですよね。下町は人口密度が高くて、人との距離が近いから、家に帰ってきたときぐらい悪口を言ってガス抜きをしたい。私の母方はカラッとして後腐れのない悪口を言うのが上手でした。旦那の会社の役職を鼻にかける人に“虎の威を借る狐”と言ったりね(笑)」
この本で森さんが両親などから教わった言葉と合わせて記すエピソードには戦争の記憶も多い。
「私が子どもの頃は戦地に行った人もいっぱいいたし、昭和2年生まれの父は1年早く生まれたら学徒動員されていたんです。家でも毎年原爆が落とされた8月6日と9日、終戦の15日は必ず黙祷していましたので、戦争にまつわる言葉だけは残したいと思いました」