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『昭和の親が教えてくれたこと』森まゆみさん|本を読んで、会いたくなって。

昭和の言葉には知恵があるんです。

もり・まゆみ●1954年、東京生まれ。出版社勤務を経て地域雑誌『谷中・根津・千駄木』を創刊。20 09年の終刊まで編集人を務める。著書に『千駄木の漱石』『東京ひがし案内』『森のなかのスタジアム──新国立競技場暴走を考える』などがある。

撮影・加藤 淳

「起きて半畳寝て一畳」「命あっての物種」あるいは「立つ鳥跡を濁さず」。これらは『昭和の親が教えてくれたこと』のなかで森まゆみさんが母から言われた言葉として紹介していることわざや格言だ。

「母や父が教えてくれた言葉が私の代で止まっていて伝わっていないと以前から思っていたんです。そんなとき、海外に住んでいる長男が帰国した際にふと、“夜爪を切ると親の死に目に会えない”や“敷居は親の頭と同じだから乗ってはいけない”という言葉を知っている?と聞いたら、聞いたこともないと言われてすごくショックで。上の世代と下の世代をつなげることが私にできることだと思っているので、これはまとめなきゃいけないなと(笑)」

森さんは雑誌『谷中・根津・千駄木』を主宰し、東京下町の魅力を伝えてきた。今回は浅草育ちの母と世田谷育ちの父、そして中学高校と山の手の学校に通った自身が折に触れて両親や親戚、そして学校で教わった言葉をエピソードとともに記している。

「“悪口を言ってはいけません”と言いますが、これは山の手の勤め人の倫理観で、下町だと“悪く言っときゃまちがいない”というほうが正しいんですよね。下町は人口密度が高くて、人との距離が近いから、家に帰ってきたときぐらい悪口を言ってガス抜きをしたい。私の母方はカラッとして後腐れのない悪口を言うのが上手でした。旦那の会社の役職を鼻にかける人に“虎の威を借る狐”と言ったりね(笑)」

この本で森さんが両親などから教わった言葉と合わせて記すエピソードには戦争の記憶も多い。

「私が子どもの頃は戦地に行った人もいっぱいいたし、昭和2年生まれの父は1年早く生まれたら学徒動員されていたんです。家でも毎年原爆が落とされた8月6日と9日、終戦の15日は必ず黙祷していましたので、戦争にまつわる言葉だけは残したいと思いました」

「親しき仲にも礼儀あり」「おたがいさま」「隣の半分まで掃くんだよ」などの言葉を題材に当時の人たちの生き方を記すエピソードを読むと、昭和の言葉には人との間合いや社会を潤滑にする知恵が込められていたように思える。

「今は生きづらいことも多い世の中ですが“人間到る処青山あり”とか“捨てる神あれば拾う神あ
り”とか、ちょっとした言葉を知っているだけでも世渡りをするうえで救われたりするんじゃないかと思います」

大和書房 1,500円
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