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『禅の教室 坐禅でつかむ仏教の真髄』藤田一照さん|本を読んで、会いたくなって。

禅僧と詩人、ガチンコのぶつかり合い。

ふじた・いっしょう●1954年、愛媛生まれ。東京大学大学院を中途退学し、曹洞宗僧侶に。その後アメリカで禅の普及に努める。現在は曹洞宗国際センター所長。著書に『現代坐禅講義-只管打坐への道』、『アップデートする仏教』(共著)ほか。

撮影・広田行正

「駒場(東京大学教養学部)にいたときに、青山学院大学にエロチックな詩を書く女の詩人がいるって聞いたんです。後にその彼氏が僕の高校の同級生(比較文学者の西成彦さん)と知ってびっくりしたんですけど、当時こちらはただの大学生。向こうは有名人。四十年後に、こうして仏教をめぐって対談することになるとは思ってもいませんでした」

 こう話すのは藤田一照さん。禅を〈からだ〉からのアプローチで指導する、いま注目の禅僧である。今回は詩人の伊藤比呂美さんとの対談で、禅とはなにか、仏教とはなにか、とことん問い語り合った。

「対談は延べ3日間におよびました。最初はくわしく章立ても考えていたのですが、いざ始まったら魂の赴くまま。僕と伊藤さんのガチンコのぶつかり合いになりました」

 詩人とはここまで言葉にこだわるのか。そう思うくらい伊藤さんはとことん粘り強く、遠慮なく、難解な仏教用語の意味を問い続ける。それに対して藤田さんは忍耐強く、ていねいに、説明する。

「伊藤さんはあくまで日常的に理解できる言葉を求める。でも伊藤さんが『隠語』という仏教用語も大切なんです。長い歴史とともに深い意味が湛えられていますから」

 二人のやりとりのなかで、少しずつ言葉の意味がひらかれていく。その過程はスリリングでさえある。

「伊藤さんは言葉にドロドロした肉体性を込める人。僕も単なる教義ではなく身体的なアプローチが好きだから、対談はほんとうに、面白かったですよ」

 その結果、本の中にはハッとするような表現が並ぶ。「お経は脚注、本文は坐禅」「乗馬は坐禅と相性がいい」「坐禅は静止しているのではない。あれは超微細な運動をしている」「寝た状態でズンバ(南米起源のフィットネスダンス)」などなど。その意味を味わうためにもぜひ本書を手にとってほしい。

 最後にぜひ聞きたいと思っていたことを尋ねた。坐禅と、いま「マインドフルネス」という言葉とともに注目されている「瞑想」は同じものなのか、それとも違うのか。

「いまビジネスの世界でもブームになっている、集中力を高めたり悩みを克服する瞑想は、『私』『人間』の諸問題の解決策なんです。一方で曹洞宗の坐禅は、悟りを具現化した姿。シッダールタが菩提樹の下で成道したそのままの姿。それを人間がやるということは、『人間が人間を超えて仏をやっている』ということなんです」

 藤田さんの言葉をすぐ理解できるとは思わない。けれど、じっくり味わいたい言葉である。

中公新書 860円
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